「なんだこれは……」
「あまり当たって欲しくは無かったけど……慎吾の思っていた、いや真司の話はやっぱり本物だったようだな」 「ああ……。藤堂どうする? 突っ込むか?」車の中で光景を静かに見つめる中交わされる会話。同乗してる結城は俺達所轄とは違い命令権を持っているのに、なぜか俺に聞いてくる。それが不思議でならない。
「なぁ結城」
「なんだ?」 表情が変わらないままで俺の顔をじっと見る結城。「お前たちが先にここに網張ってるんだからすぐに動けるんだろ? なのになぜおれに聞く?」
「あぁそうか……俺や慎吾よりも動きやすいはずだな。なぜだ? なぜ動かない」 村上もその事に気づいたようだ。後部座席の結城はもともと何を考えてるかよくわからない奴だけど、ここで俺達に遠慮するような奴じゃない事は付き合いから分かっている。その言葉によって動員できる人数も俺達二人の比じゃない。
「ふっ……。何のことだ? 確かにここには自分の息のかかっている捜査員が数人いるにはいるが……中に入って行く事はないぞ」「なに!?」
「何を驚く。これは君たちの事件だろ? ならばウチが動いて手を出すことは無い。俺は犯人が挙がってさえくれればいいんだからな」 「でもそれじゃぁ……今お前がここにいるのは?」 「俺か? 俺はお前たちの同僚としてだ。ただそれだけだが? 手伝って当たり前だろう?」 俺と村上が顔を合わせて苦笑いする。「バカだ」
「あぁバカだな」 「む!! なんだと!!」そう言いながらガチャガチャと腰に下げたモノを確認する。
「そろそろ来る時間だぞ……」 「ヤツか?」 「そのはずだ」 停めている車の前に一台の黒塗りの高級車が停まる。それから「ねね、綾乃ちゃん」「うん? なに?」 場所は市川さん姉妹のご家族所有の別荘の広間。今は二人で向かい合ってお茶飲んでいる。 私達がここに来ることになったのは、本当に偶然というか話の流れでなんだけど、本当に来ちゃって良かったのかなぁなんて思ってるわけ。 だって知ってる人って言ってもシンジ君たち兄妹とカレンさんだけだし、市川さん姉妹とは会ったことはあるけどこんなところにまで遊びにお邪魔できるほど仲がいいなんて言えない。それなのにここにいるなんて不思議な感じがする。「私達ってここに何しに来たのかなぁ……?」「何言ってるの? 誘われた時に行きたぁ~いって言ったのは夢乃でしょう?」「そうだけどさぁ。みんないい人なんだよ。いい人たちだからこそ、ここで混ざっちゃってていいのかなぁってて」「いいんじゃない? だって、あの兄妹《きょうだい》が視てる世界に興味があるんでしょ? ああ……それとも真司君……」「ないないない!!」大きく顔の前で手をブンブンと交差しながら否定する。「そうなの?」「そうだよう!! それにあのアイドルのカレンさんがいるし、響子さんと理央さんもすんごく綺麗だし、カワイイ伊織ちゃんもいるし、真司君シスコンだし」「シスコンは関係ないと思うけど」「そ、そうだね」 その会話の後しばらく黙って二人でお茶を飲む。「ねね、綾乃ちゃん」「うん? なに?」「私達ってここに何しに来たのかなぁ……?」――なんてことを聞いてくるのかしらねぇ。自分で言ってきたくせに。だいたい何しにって……。本当どうして私もここに来ちゃったんだろう? あそこであんな風に姉と別れてから凄く寂しかったのは確かだけど、今までの私ならここには一緒に来たりしなかっただろうなぁ。「何言ってるの? 誘われた時に行きたぁ~いって言ったのは夢
レイジと一緒にいたはずの砂浜には俺一人がそのままの場所に腰を下ろしていて、戻ってくるのが遅い俺を心配して浜まで来た伊織の姿しかなかった。 レイジが俺に言っていた事。「なぁ、伊織」 俺の隣をポンポンとたたく。意図した事に気付いたのか伊織が素直に隣に腰を下ろした。「なぁに 」「この街ってどう思う?」「どうって?」「う~ん、変わった事とか気付いた事とかないか?」「ん~~!!」 とうなりながらアゴに手を当てて考え出す伊織。この姿を見るだけでもかわいいと思う。決して兄貴のひいき目だけじゃなくて。最近伊織が俺に対する時に見せる感情表現が多いように感じる。この感じ……懐かしいな。子供の頃は二人で良く話してたっけ。「あのね、気になってるというか気付いた事があるんだけど……」「え? あ、うん。気付いた事って?」 自分の思考に落ちていた俺を伊織の声が浮上させてくれた。「この街って……あの駅を降りてからだよね? ここに来るまでの間って綾乃さんの家の他に神社とか見当たらないなぁって思ってた」「神社……かぁ」 伊織の話を聞いて俺も思い出してみたけど、確かに日暮邸の社以外に神社のような建物や鳥居などが無かったような気がする。ただそれは、神社を探すって思いながらじゃないと気付かないかもしれないし、単に見落としているだけかもしれない。でも、何かが少し繋がったような感じがする。 日暮さんのお父さんが話していた事を思い出そうとするけど、どうしてもあの時一緒に寝た伊織の事しか思い出せない。それだけ強烈な印象を受けてしまったみたいで、その前の事をけっこう忘れてしまっている。「もう一回話を聞きに行ってみる?」「そうだなぁ……日暮さんに話してみるかな」「そうと決まったら戻ろ!!」「え、あ、いや!! わかったから引っ張るな!!」 先に立ち上がった伊織がぐいぐいと俺の腕を引っ張
ビーチパラソルを中心にして色とりどりの花が咲いてるみたいに綺麗な光景が目の前に映る。――この光景を一人で長時間も目にしてるのはなんだか申し訳ない気がして来た。こんなにキレイな花の中に男が俺一人って。絶対にクラスのヤツラにばれないようにしないとまずいな……あれ?? 男ひとり?? 俺は周りを見渡してみるけど、その姿が見当たらない。「あれ? レイジがいない」「そういえば……」「あ! 私見たよ!! みんながここに来る前に、一人でお屋敷の方に歩いて行ったみたい」 相馬さんが見ていたというなら、とりあえずは安全だろうな。まだ近くにいるだろうし。「ねぇ? 正直言ってどうなの? あの子」「なんか不思議な感じなのよねぇ……話しやすいというか……う~ん」「でもさ、悪くは感じなかったよ? 私だけかもしれないけど」「で…シンジ君はどう思ってるの?」 一斉に俺に向けられる視線。こういうの慣れてないんだよな。特に女の子から向けられる視線なんて、軽蔑とかそんな感情の時くらいしか感じたことないし。でも今向けられてる視線はそんなものじゃなくて、純粋に意見を求めてくれてるもので信頼されてるからこそ俺に向けられたものなのだ。――正直に思ったことを話すのが、今の俺に出来るこの信頼の証だと思う。「俺が思うのは、彼は霊的なモノじゃないような感じがする。何かを守ってる存在というか…上手く言葉に出来ないんだけど、お守りみたいな感覚……かなぁ」「それ、何となくわかる」「私も、お義兄《にい》ちゃんと同じような感覚です。彼と話をしてると安らぐというか、落ち着くんです」 皆がこくこくとうなずく。――俺も同意見だ。「それに、彼は初めて俺の前に姿を現した時にこう言った「もう一人を探してくれ」って。と、言うことは本来彼は二体以上で一
俺は今海を見つめている。 市川家の別荘のあるところから歩いてわずか五分のところにあるプライベートビーチ。砂浜にビーチパラソルを刺して、広げたレジャーシートにみんなの荷物が置いてある。「君もやはり|男《・》なのだな」「な、なんだよ急に!!」 隣にいたレイジがぼそっと漏らす。「君の視線が……」「へ、変な事言うなよ!! 俺が見てるのはひろぉ~~い海だ!! 決して水着姿の女の子達じゃないぞ!!」――そう断じて俺は見てないと言い張ってやる!!「別に悪いとは言わん。むしろ君たちなら当たり前なのではないのか?」「そ、そうかな?」「君は優しすぎる。そして隠し事をするのが上手らしいな。それともその想いに気付いていないだけなのか? いや……フタをしているだけのようだな……」 隣でブツブツと言い始めたレイジを放っておいて、俺はとりあえずまた海《・》を眺めることにした。――しかし良い眺めです。いろんな意味で。 サラッと説明しておこうかな。 カレンは赤いビキニです。さすがアイドルって感じに引き締まった体のラインが凄いですね。PVの撮影って言われても納得してしまう感じに動き回ってます。市川姉妹の姉、響子もビキニを着てますけどこちらは白、おっとり系な響子にしては水着は少し大胆なのかな? 太陽に反射して眩しいです。妹の理央は青い少し露出の多いワンピース。腰にパレオ巻してるけどやはり響子と双子っ娘《こ》ですね。スタイル良さがそれだけでわかります。この市川姉妹もカレン同様に雑誌等に出ていてもおかしくないと思う。相馬さんはセパレートタイプの水色の水着で、引き締まった体が眼を引き付けるものが有ります。かなりトレーニングでも積んでいるみたいです。――あれ? そういえば相馬さんて部活やってるんだっけかな? 日暮さんは黒のちょっと際どい背中のスリットが特徴的なワンピース水着。巫女姿ではわからないけど、日暮さんも出るとこは出てて、
「ひゃう!! ブ、ブラコンとか…そんなんじゃないんですぅ~~!!」 叫びながら立ち上がって走っていく伊織。「あ、逃げた」 ぽつりとつぶやく日暮さん。顔を見合わせるカレンと市川親娘。――なんだこれ……。「私はどうしたらいいのかな?」「レイジはそのままみんなと話をしててくれればいいよ」「ふむ。理解した。そうさせてもらうとしよう」 で、俺はというと逃げていった。 いや、走り去って行った伊織を追いかけていく。自分の部屋に割り当てられたところをノックしたけど返事がない。何度かたたいたけどそれでも部屋から反応が無いので、恐るおそる中をのぞいてみる。 伊織の姿は見当たらなかった。そのほかに行くところと言えば、浜辺の見える中庭くらいか。俺はそちらの方に足を向けた。 海の潮の匂いの混じった柔らかい風が顔をなでていく。そんな感覚の中、走って行った伊織を追いかけて中庭まで来たんだけど、その伊織の姿が見当たらない。もう少し浜の方に行ったかもしれないと、浜に続いているだろう道を歩いて行く。少し入ったところに小さくかがんだ女の子がいた。 後ろ姿で分かる。妹だ「伊織探したぞ!!」 振り向いた伊織は悲し気な表情をしていた。眼に涙がうっすらと溜まっているようにも見える。「ど、どうした!?」「お、お義兄ちゃん。これ……」 視線を移していく伊織。その視線に合わせて俺もその後を追う。 そこには草むらの中にポツンと一体だけ石でできた人形のようなものが無造作に横になって転がっていた。「こんなところに……」「お義兄《にい》ちゃん、これってお地蔵様だと思うんだけど……」「それはちょっと考えられないというか…。ここは個人所有の土地だからね、その敷地の中にお地蔵さまって普通はないよ。とりあえず一回みんなのところに戻って市川姉妹の
「え~っと……お義兄《にい》ちゃん、その後ろの子って……誰かな?」 光に包まれた俺が戻ったとき、隣には先ほどお願いしてきた少年が何事もなかったように立っていた。どうしたもんか一人で考えるよりも、みんなと相談した方が良さそうだと判断した俺は、自分に割り当てられた部屋の中に荷物を置いて広間の方へと歩いて向かって行った。そこで出会ったのが義妹《いもうと》の伊織で、クチから出たのが先ほどのセリフである。――そりゃぁそう言うようなぁ……。 分かってはいたんだけど、言われると少し申し訳なさが込み上げてくる。ここには楽しみに来たはずなんだけど、もうその目的も崩壊したのと同じだから。「うん。説明は後でみんな一緒の時にするんだけどね。そういえば……君の名前を聞いてなかったよ」「名前……か」 隣に並んでいる少年は、その質問に考え込んでいるようだ。「ないの?」「君たちの言う名前……とは私を呼ぶためのモノなのだろう? なら……無いかもしれないなぁ」「違うよ!!」 話を聞いていた伊織がツカツカと近づいて来て、少年の前にヒザを曲げて目線を合わせる。「名前は君自身を表すもの。今ここにいる君の存在の事だよ、ただ呼ぶためのモノじゃないよ」「ふむ……君はなかなかいいことを言う。では君が名前をつけてくれないか?」「え!?」 伊織が「困ったよぉ!!」って顔して俺に視線を向けてきたけど、そんな簡単に名前なんて思いつくものでもないし。俺にそんな能力は備わってない。「な、名前かぁ……う~ん。じゃぁレイジとか?」「レイジ……か。良いだろう、これから私はレイジだ。よろしく頼む」「決まっちゃったよ……」――あれ? そういえば、このコと一緒にいるのになぜだろう嫌な感